■ 易の占い方


■ 変爻が全てを決める


易の構造では井の卦について下から上に上がって数えることを説明した。最初が陽爻なら初九,陰爻なら初六と呼ぶ。
ここで、「初」は順番を表し、「九」は陽爻「六」は陰爻であることを表す。
以降,井卦の場合は順次上に上がるにつれて,九二(きゅうじ),六二(りくじ),九三,六三,九四,六四,九五,六五,上九(じょうきゅう),上六(じょうりく)と呼ぶ。

表に現れる数字としては、陽が九、陰が六であるが、裏にもう2個の数字があって、それは七と八である。
陽は剛(固いもの、割れないもの)を表し、数字としては奇数を表し、陰は柔(柔らかいもの、割れるもの)を表し、数字としては偶数を表す。
そして陽は実際は9か7で表され、陰は6か8で表されているのだが、下記にみるように、表面的には陽と陰しか表示されないので「9の陽」なのか「7の陽」なのか、 「6の陰」なのか「8の陰」なのかは分からない。

上六 陰; or 0
九五 陽; or 1
六四 陰; or 0
九三 陽 or 1
九二 陽 or 1
初六 陰 or 0
  井(せい)

陰と陽はそれぞれ同じ程度に現れるハズなので、その出現確率は1/2づつであるのは納得できよう。
これは例えば(9+7)の出る確率は1/2ではあるが、「9」の出る確率と「7」の出る確率は違うかもしれないという意味がある。

実際、次の項(爻の算出方法)で実際に計算してみると、算出方法にもよるが 6,7,8,9の出る確率はそれぞれ異なる。

易では、「極まったものは反転する」という考え方があり、これは「月の満ち欠け」や「奢れるものは久しからず(平家物語)」として、日本でもよく知られている 考え方である。

これにならって、「6は陰の極み」で陽に転ずる、「9は陽の極み」で陰に転じると考えられており、「老陰(6)」、「老陽(9)」と呼ばれる。

そして易ではこの「老陰、老陽」が出てきた爻は 「変爻」 と呼ばれ、「変化の意思」としてその該当する爻の文言が占いの宣託となるのである。

一方、7と8は「小陽」、「小陰」と呼ばれ、「安定した状態」にある爻とみなされている。

(2024年1月17日追加)

■ 爻の算出方法


易の占い方には簡単なものから複雑なものまで何種類かある。一番簡単なものはコインを投げるやり方であるが,このやりかたは日本ではあまり知られていないが本場中国では簡便な方法として利用されている。易といえば,例の筮竹(ぜいちく) をジャラジャラやるのが一般的なイメージである。これにも3種類あり,一番本格的なものを本筮法(18変の法)といい,易経の繋辞上伝(第9章)に記載されている。これを簡略化したものを中筮法および略筮法という。

(1)3コイン投法

きれいなコインを3枚用意する。後で詳しく説明するが、易では6,7,8,9の4種類の数字にそれぞれ老陰・少陽・少陰・老陽の4種類の意味を持たせている。偶数は陰,奇数は陽であり,老陰(6)は少陽(7)に,老陽(9)は少陰(8)に遷移しやすく,少陰・少陽が安定状態である。
3枚のコインを手のひらで包み,よく振って同時に下に落とす。思いを込めて,十分に振ることが重要である。下には清潔な布を敷いておくこと。落ちたコインの裏の枚数を数えて,それぞれ0,1,2,3枚を6,7,8,9に対応させる。つまり,裏に3点,表に2点を与えるということである。これを6回繰り返す。1回目から6回目までがそれぞれ初爻から上爻を表す。例として,8,7,7,6,7,8の順番で卦を得たとする。これは,陰・陽・陽(風)・陰・陽・陰(水)であるから,井(せい,48)の卦である。この時,第4爻が老陰(6)なので,これは少陽(7)に変わりやすい。この場合に易のアドバイスとしては井の第4爻:
六四:484.一度汚れた井戸を掘り返し,泥を浚えたあとで水が汲めることも確認した。 さらには,井戸の内側に敷き瓦をしいて準備万端である。あとは人々がこの井戸の水を飲むだけであるような状態です。貴方も準備万端,問題はありません。
が採用されてることになる。この第4爻は上記で説明した変爻であり、宣託として提示される。

数学的には,6,7,8,9を得る確率をP(6),P(7),P(8),P(9)とすると,P(6)= P(9)=1/8,P(7)= P(8)=3/8は自明である。また,以下に示す関係が成り立っている。
P(6) + P(7) + P(8) + P(9) = 1
P(6) + P(8) = 1/2 (陰を得る確率)
P(7) + P(9) = 1/2 (陽を得る確率)

(2)本筮法(18変の法)

49本の筮竹をジャラジャラやる方法である。この方法では以下に示すように,筮竹をランダムに2分することに本質的な意味があることに注意して欲しい。
50本の筮竹を用意し,これを左手に持ち,1本を取り出し自分の前に置く。この1本は大極と呼ばれ,天地創造以前の渾然たる真空状態(Big Bang以前)を表す。この1本は今後用いることはない。
残り49本の筮竹を左右両手でパシッと2分する。これらの左右2束はそれぞれ左が天を,右が地を表す。
右手の束から1本を取り出し,それを左手の小指と薬指の間に挟む。この1本は人間性を表す。ここまでで,天・地・人が揃ったことになる。
左手の束から4本づつ抜き出し,残りが1,2,3,4になるまでこれを継続する。つまり,4で割った余りを出す。抜き出した4本束は四季を表している。この余りの筮竹を,左手の中指と薬指の間に挟む。
右手の束から4本づつ抜き出し,残りが1,2,3,4になるまでこれを継続する。つまり,4で割った余りを出す。この余りの筮竹を,左手の中指とひとさし指との間に挟む。
今まで指の間に挟んだ筮竹をすべて足すと必ず5か9になる。49本の筮竹から,この5または9本の筮竹を引く。結果はそれぞれ44または40本の筮竹が残る。
残った44または40本の筮竹を使って,上記②から⑤までを繰り返す。左手の指の間には4か8本の筮竹が残る。これを44または40本の筮竹から引くと,残りは32,36,または40本のいずれかの筮竹になる。
残った32,36,または40本の筮竹を使って,上記②から⑤までを繰り返す。左手の指の間には4か8本の筮竹が残る。これを32,36または40本の筮竹から引くと,残りは24,28,32,または36本のいずれかの筮竹になる。
24,28,32,または36本の筮竹を4で割ると,それぞれ6,7,8,9になり,それぞれに老陰・少陽・少陰・老陽の意味を持たせているのはコイン投法と同様である。
②から⑨を6回繰り返し,卦を得ることができる。
その結果,例えば初爻より順に,8,8,7,6,6,8を得たとすれば,上八卦は坤,下八卦は艮で謙(15)の卦である。この時,変爻(変わり易い爻)は第4爻と第5爻であるが,このHome Pageでは,この場合は第4爻をアドバイスとしている。
数学的には,6,7,8,9を得る確率をP(6),P(7),P(8),P(9)とすると,P(6) = 1/16, P(7) = 5/16, P(8) = 7/16, P(9) = 3/16である。コイン投法とは微妙に確率は異なるが,卦のレベルでは,以下に示す関係が成り立っており同等である。
P(6) + P(7) + P(8) + P(9) = 1
P(6) + P(8) = 1/2 (陰を得る確率)
P(7) + P(9) = 1/2 (陽を得る確率)


(証明)
最初の②から⑥において,5を得る確率は3/4,9を得る確率は1/4。次の⑦において,4を得る確率は1/2,8を得る確率は1/2,次の⑧において,4を得る確率は1/2,8を得る確率は1/2。 結局,P(6)は最初が9,2回目が8,3回目が8(9・8・8と表す)のみであるから,P(6)=1/4 * 1/2 * 1/2 = 1/16。 P(9)=(5・4・4)のみだから,P(9) = 3/4 * 1/2 * 1/2 = 3/16。P(7) = (5・8・8)または (9・8・4)または (9・4・8)だから,P(7) = (3/4 * 1/2 * 1/2) + (1/4 * 1/2 * 1/2) + (1/4 * 1/2 * 1/2) = 5/16。P(8) = (5・4・8)または(5・8・4)または(9・4・4)だから,P(8) = (3/4 * 1/2 * 1/2) + (3/4 * 1/2 * 1/2) + (1/4 * 1/2 * 1/2) = 7/16。
Q.E.D

(3)略筮法

本筮法18変は比較的長時間を要し,精神的にも体力的にも緊張を持続することが困難であり,簡略化された方法が開発された。そのうちの一つが略筮法3変である。本筮法18変と途中まで(③まで)同じである。
50本の筮竹を用意し,これを左手に持ち,1本を取り出し自分の前に置く。この1本は大極と呼ばれ,天地創造以前の渾然たる真空状態(Big Bang以前)を表す。この1本は今後用いることはない。
残り49本の筮竹を左右両手でパシッと2分する。これらの左右2束はそれぞれ左が天を,右が地を表す。
右手の束から1本を取り出し,それを左手の小指と薬指の間に挟む。この1本は人間性を表す。ここまでで,天・地・人が揃ったことになる。
左手の束から8本づつ抜き出し,残りが7本以下になるまでこれを継続する。つまり,8で割った余りを出す。この余りの筮竹と③の1本を加えた筮竹の数によって下八卦を決定する。
筮竹の数 = 1 の場合 乾(陽・陽・陽)
筮竹の数 = 2 の場合 兌(陽・陽・陰)
筮竹の数 = 3 の場合 離(陽・陰・陽)
筮竹の数 = 4 の場合 震(陽・陰・陰)
筮竹の数 = 5 の場合 巽(陰・陽・陽)
筮竹の数 = 6 の場合 坎(陰・陽・陰)
筮竹の数 = 7 の場合 艮(陰・陰・陽)
筮竹の数 = 8 の場合 坤(陰・陰・陰)
①から④までをもう一度繰り返し,上八卦を決定する。
変爻を決定するために,以下の動作を行う:
①から③までを繰り返す。左手の束から6本づつ抜き出し,残りが5本以下になるまでこれを継続する。つまり,6で割った余りを出す。この余りの筮竹と③の1本を加えた筮竹の数によって変爻の位置(1から6の範囲)を決定する。
この略筮法では,数学的な評価については,上記2法と基本的に異なるので行わない。一般に街で行われていた易占いは,所要時間から推察してこの略筮法ではないかと思われる。

(4)変爻が複数ある場合の占断(アドバイス)方法

略筮法では,変爻はただ一通りしか出ないが,3コイン投法や本筮法(18変の法)では複数の変爻がありうる。このような場合,どれを易からのアドバイスとするか,は大きな問題である。これに関しては様々な説があり,どれを採用するかは決まっていない。今まで調べた範囲では,日本での文献で明確にこれを追求したものは見出されていない。むしろ,この部分は企業秘密にさえ思える。ということは,”なぜ易があたるのか?”という質問には的確に答えられないことを意味する。このHome Pageでは,ある海外での文献(The Complete I CHING by the Taoist Master Alfred Huang)の方法を採用している。易の考え方から見ると非常に自然に思える方法である。これが適切かどうかは今後事例の調査を通じて検証していく予定である。

(2001年5月20日;第一版 Copyright 寒泉)