■ 証明・計算
(1)量子アルゴリズム編
〔2キュービットの任意の状態がどれかの基底に掃き出せることの証明〕
2キュービットの任意の状態Σa,b={0,1}Cab|a>|b>を,基底の一つである|1>|1>に変換するアルゴリズムとその量子回路を考える。ここで,Σa,b={0,1}|Cab|2 = 1.
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> → |1>|1>
基底を2つのグループ|0>|0>,|0>|1>と|1>|0>,|1>|1>に分けて考える。第一ビットを制御ビット,次を標的ビットとする制御-U12を用いて,
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> →
C00|0>|0> + C01|0>|1> + √(|C10|2+|C11|2)|1>|1>
と|1>|0>基底を掃き出すことができる。
(証明)制御-U12の変換後は,|1>|0>基底と|1>|1>基底の係数がそれぞれ,
C10|1>|0> → (C10u11 + C11u12)|1>|0>
C11|1>|1> → (C10u21 + C11u22)|1>|1>
と変換され,|1>|0>基底の係数C10u11 + C11u12を零とするようにu11とu12を選ぶことができるからである。ここに,unm(n,m=1,2)は制御-U12の第三,第四行・列成分であり,ユニタリー性により
|u11|2 + |u12|2 = 1
|u21|2 + |u22|2 = 1
u11u21* + u12u22* = 0
である。従って,
C10u11 + C11u12 = 0
であることから,
u11 = - (C11/C10) * u12
= - C11/√(|C10|2+|C11|2)
u12 = C10/√(|C10|2+|C11|2)
基底|1>|1>の係数をYとすると,
Y = C10u21 + C11u22
u21/ u22 =
-u12*/u11*=
C10*/C11*より,
u21 = C10* * Y /(|C10|2+|C11|2)
u22 = C11* * Y /(|C10|2+|C11|2)
|u21|2 + |u22|2 = 1
に代入して,
|Y|2/(|C10|2+|C11|2) = 1
故に,|Y| = √(|C10|2+|C11|2)
Y = |Y|eiφ
= √(|C10|2+|C11|2)eiφ
となり,位相φは不定であるが全体にかかるので影響はない。
次に,第一ビットにNOTを掛けたものに同様な操作を施すことにより,|0>|0>基底を掃き出すことができ,
√(|C00|2+|C01|2)|0>|1> + √(|C10|2+|C11|2)|1>|1>
に変換できる。最後に,第2ビットを制御ビット,第1ビットを標的ビットとする制御-V21を施すことにより|0>|1>基底を掃き出すことができる。結論を繰り返すと,
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> → |1>|1>
が制御NOTとNOTで作られた制御-U,制御-Vにより達成されるのである。同様にして,
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> → |0>|0>
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> → |0>|1>
Σa,b={0,1}Cab|a>|b> → |1>|0>
も達成できる。
Q.E.D
〔S’がSに等しいことの証明〕
S’の構成要素である,
G(Ψ0)-1X0G(Ψ0)
の働きを考える。G(Ψ0)の定義により,
G(Ψ0)|Ψ0> = |0>であり,
X0|0> = e iσ0|0>
であるから,
X0G(Ψ0)|Ψ0> = e iσ0G(Ψ0)|Ψ0>
は明らかである。両辺に左からG(Ψ0)-1を作用させ,
G(Ψ0)-1X0G(Ψ0)|Ψ0> = e iσ0|Ψ0>
を得る。n≠0の|n>に関しては,
G(Ψ0)-1X0G(Ψ0)|Ψn>
= G(Ψ0)-1(e iσ0|0><0| + |1><1| + |2><2| + |3><3|)G(Ψ0)|Ψn>
= G(Ψ0)-1(|0><0| + |1><1| + |2><2| + |3><3|)G(Ψ0)|Ψn>
= G(Ψ0)-1G(Ψ0)|Ψn>
= |Ψn>
ここに,<0|G(Ψ0)|Ψ0> = 1であるから,
<0|G(Ψ0)|Ψn> = 0 (n≠0)であることを用いた(従って,黄色の|0><0| の部分はダミーである)。
以上より,一般に次のことが成り立つ。
G(Ψn)-1XnG(Ψn)|Ψn> = e iσn|Ψn>
G(Ψm)-1XmG(Ψm)|Ψn> = |Ψn> (n≠m)
このことは,S'を|Ψn>に作用させる場合,積Πm=03G(Ψm)-1XmG(Ψm)のうち,n = m のところが位相e iσnを与え,他は恒等変換として働くことを示している。即ち,
S’|Ψm> = e iσm|Ψm>
であり,固有状態でS'を展開すれば,
S’ = Σm=03e iσm|Ψm><Ψm|
と書くことができる。これはSと同じものである。
Q.E.D.
〔フェルマーの小定理の証明〕
素数pを法とする体系Zpで,0以外の数aを一つ定める。1,2,3,… p-1の全てにaをかけるとa,2a,3a,…(p-1)aとなるが,これらは全て相異なり,しかも0ではない。従って,これらは1,2,3,… p-1を並べ替えたものであり,全部かければ1,2,3,… p-1の積と同じはずである。即ち,
ap-1(p - 1)! = (p - 1)!    mod    p
しかし,(p - 1)!は素数pでは割り切れないから,両辺を(p - 1)!で割って,
ap-1 = 1   Mod   p
である。
Q.E.D.
(2002年5月5日;第一版 Copyright 寒泉)