■ 必要にして最小な数:4

世の中には一見何でもないようなことだが,よくよく見ると不思議がものごとが多い。科学はそうした不思議な事象を説明する道具であるが,説明するためにはどうしても微に入り細に入るので(だから科学;分科の学問と命名された),反対に大きく,かつ基本的な相似性・共通性などについては見落とされがちである。これらの大きな議論は必然的に形而上的となり,机上の空論として片づけられる運命にある。世に哲学者と呼ばれる人種がこういった基本的な問題を議論するが,往々にして科学的知識が少ないため議論の土台がグラついている場合も見受けられる。大きな話は具体例がないと難しいものである。

科学は一見万能に見えるが,実は非常に限定的なものである。必ず前提条件がついているのである。その前提条件の範囲では事象を正しく説明でき実験でも証明できるが,前提条件が適用できない領域では正しい説明はできない。たいていの場合,その前提条件下では説明できない事象がポロポロ現れて,それらの事象の数が段々と増え,ついには,前提条件から見直しを迫られ,新しい理論体系が生み出されていく。現代の宇宙物理学・素粒子物理学は宇宙創生時の議論(それも,宇宙が生れてから1秒以内!)や創生後数百億年たった宇宙の状態を説明しようとしており,「そんなもの関係ない」と一蹴されることが多い。そもそも目に見えない事象,経験・実験不可能な事象はにわかには信用できないものである。

我々の生活とは一見関係ない理論体系が,その理論体系間も互いに全く関係のないと思われても,よくよく見ると非常に似た構造を持っていることにしばしば驚かされる。そんな例を幾つか挙げてみた(以下のテーブルを参照)。ここでは数4を中心として一覧にしてみたのだが,4という数は非常に不思議な数字に思えて仕方がない。

まず,我々の住んでいる時空は4次元である。3では不足だし,5以上の次元は見ることも触ることもできない。理論的には,超弦理論のように10次元を考えることができるが,現実の世界では6次元が巻き取られて(巻き取るとは,どういう意味か?)4次元しか現れない。更に,自然界に存在する力(相互作用の種類)は4種類である。電磁相互作用,弱い相互作用,強い相互作用,重力で全てが尽くされている。これらを一つの相互作用にまとめて説明する理論(大統一理論)もあるが,実験できるのは宇宙創生時と同じ環境が必要である。なかなか正しさが証明できない。1種類の相互作用から,現在での4種類の相互作用が派生したとしても,それで全てを尽くしているのが不思議である。どうして3種類とか5種類の相互作用に別れないのか?

宇宙に高度な原子構造が生れるための鍵となったのが炭素原子の存在である。ビッグ・バン後の初期の宇宙では,まず水素の原子核がが合成された。その後の反応過程により,水素の原子核の一部が融合して,より複雑なヘリウム原子核になった。しかし,水素もヘリウムも反応性が低い。膨張して冷え続ける宇宙では,これらをさらに結合させて,より重い元素をつくるためのエネルギーを確保できなかった。より複雑な元素へ進化できるためには,十分な量の炭素が存在し,その触媒作用によって水素とヘリウムが更に結合されて重い元素ができる場合に限られていた。ところが驚くべきことに,ある偶然により,十分な炭素が得られたのである。それは,ヘリウム,ベリリウム,炭素,酸素の4種類の元素のエネルギー水準が,互いに微妙な調和関係を保っていたからである。

炭素(6C)の合成には,ベリリウム(4Be)の原子核を生成するヘリウム(2He)と,ヘリウムの反応を起点とする一連の反応を必要とする。
22He → 4Be
しかし,生成されるベリリウムの原子核は不安定な放射性同位元素であり,ほぼ生成されると同時に崩壊してヘリウムに戻る。ここで崩壊せずに炭素になるためには,ベリリウムがヘリウムと反応する必要がある。
4Be + 2He → 6C
この反応は極めて起こりにくいはずだが,実際には起こる。なぜ起こりにくいかといえば,4Beと 2Heの核エネルギーの総和は7370Mev(メガ電子ボルト)であり,6Cのそれは7656Mevであって,左辺より大きく,従って,通常の反応は起こらないと考えられるからである。しかし,なぜ実際は起こるかといえば,両者の値が非常に接近しているので,「クラスター移行反応」とよばれる核反応が起こると考えられているからである。「クラスター移行反応」とは,α粒子(2He)がクラスター的に原子核を構成するというモデルにおいて,α粒子を入射粒子,クラスターが複数集まって形成された原子核(クラスター構造原子核)を標的粒子として核反応する場合に,エネルギー準位がほとんど等しい場合には,入射したα粒子を加えた新しいクラスター構造の原子核に移行する反応のことをいう。クラスター構造を持つ元素としては,4Be ,6C以外に,8O,10Ne,12Mgが考えられている。

一旦形成された炭素は更にα粒子とクラスター反応し,酸素を形成する。
6C + 2He → 8
この反応も炭素形成同様,通常は起こりにくいが,核エネルギーの値がほぼ等しいという偶然により,実際には多く発生した。ところが,同じクラスター構造を持つ10Ne,12Mgへは実際の核反応が少なくなっている。 これは,クーロン力による反発力が核反応に対抗する割合が多くなるため,と一般には考えられている。いずれにしても,4元素のエネルギー値が偶然ほぼ等しい値を持つことによって,炭素,酸素が多く形成され,これらとヘリウム,水素が有機的に結合することにより,宇宙に高度な原子構造が生れたことは驚愕に値すべきことだと考えられる。

決定論と非決定論という,一見相容れない重要テーマについて考えてみよう。非決定論は確率的法則であり,将来の予測については統計的な予言しかできない。一方,決定論では初期値が決まれば,t秒後の動きは全て予測できる。身の回りの卑近な事象はほとんど決定論的に説明できる。因果律の科学的な説明は決定論によってなされる。まさに,「神はサイコロを振るのは好まない」のである。現在科学の雄である相対性理論は決定論である。しかし重要なことは,現在科学のもう一方の雄である量子力学は非決定論であり,実験は統計的に処理されねばならないのである。決定論的な系と非決定論的な系の性質を分ける要素とは一体何なのか?

カオスの理論というのがある。もともと決定論である離散力学系(Xn+1 = Φ(Xn))が,ある値を境に決定論が非決定論に変身するのである。1973年,物理学から数理生態学に転向したロバート・メイは,昆虫の増殖モデルであるロジスティック方程式,
dN/dt = rN(K - N)/K
を差分方程式に置き換え,次の式を得た。

Xn+1 = a(1-Xn)Xn

メイはこれをコンピュータによって数値実験することで以下の結論を得た。
0 < a < 1の場合; Xnは0に収束。
1 ≦a < 3の場合; Xnは1 - 1/aに収束。
3 ≦ a < 1+√6 (≒3.44)の場合;Xnは周期2の振動。
1+√6 ≦ a < ac(≒3.57)の場合;Xnは周期2n+1の振動。
c ≦ a < 4の場合;Xnはカオス状態
なんと,決定論と非決定論の違いは4という数字の近傍で起こるのである。4はカオス状態を表す整数であり,混沌の象徴ともいえる数なのである。

以上は,多分単なる偶然なのだろう。しかし,4という数字は,ある系を構成するのに,必要にしてかつ最小な要素を表す数字に思えてならない。または,世の中に多様性をもたらすための基本要素の数とも言える。我々の宇宙の各システム(系)は4種類の何かを基本要素として構成され,多様な世界を作り出しているのだ。その4種類の基本要素がある時はペアを組み,更にそのペアが3種類より集まって基本的な上位構造を形成する。このような構造が,ミクロなレベルでは素粒子から,マクロなレベルでは生命や宇宙の力にまで複合的に及んでいると考えられる。易は,その宇宙の全体構造を的確に表現したシステムである。以下の表に見られるように,6,7,8,9を基本要素とし,陰陽のペア構造,3爻で八卦を構造化し,八卦のペア構造(64卦)で全体を構成している。自然科学,生命科学,易の各構造は非常に似かよっている。まったく研究途上ではあるが,易の構造は場の量子論的にも構成できそうだ。その前に易と生命科学,とくにDNAの構造上の相似・相違点を詳しく整理しておこう。きっと何かの参考になるであろう。表中?の部分は,現在では私自身よく分からない部分である。今後の研究により解消することを期待している。



  2(ペア構造) 3(外部/内部構造) 4(基本要素)
自然科学 素粒子物理学 ボソン/フェルミオン,ハドロン/レプトン,粒子/反粒子 原子構成粒子(陽子,中性子,電子) ハドロン構成粒子(3種類のコーク) 宇宙を構成する基本素粒子(陽子,中性子,電子,光子) 力の種類(電磁,弱い力,強い力,重力)
炭素原子の生成 α 粒子(2He ) クラスター構造 He,Be,C,Oのエネルギー準位がほぼ同一 通常の核融合で形成されるのは鉄(原子番号26)まで。以降は超新星爆発等で生成される。
生命科学 有機体の生成 C,N,O,H
DNAの構造 A-T,G-Cペア アミノ酸の生成に基本塩基4種類から3種類の塩基を組み合わせて構成 4種類の基本塩基(A;アデニン,C;シトシン,G;グアニン,T;チミン) 必須アミノ酸は20種類
易(卦)の構造 陰爻・陽爻 陰爻・陽爻を3爻で八卦,八卦のペアで六十四卦 6(老陰),7(少陽),8(少陰),9(老陽) 上経30卦(自然界),下経34卦(人間界)の非対象性
量子易学の構造 スピンUp/Down状態,左/右偏光状態 4種類のベル基底から,3基底状態のテンソル積で複合系を構成 4種類のベル基底(|Φ+> = (|00> + |11>)/√2, |Φ-> = (|00> - |11>)/√2, |Ψ+> = (|01> + |10>)/√2, |Ψ-> = (|01> - |10>)/√2, ) ??
(2002年7月14日;第一版 Copyright 寒泉)