■周易の宇宙観

■天人相関と天人合一

従来の易では「易はなぜ中るか?」という問いはしてはいけない、とされていた。何故であろうか?

春秋・戦国時代には儒教は孔子の教えとして魯の国を中心に広まっていたOne of themの教え(この時代は諸子百家ともいう)であり、他の教え、例えば陰陽家からも影響を取り込みつつ発展した。 易の文言はもともと剛・柔を中心として記述されるが、陰・陽と繋辞伝に記述されることでより適用概念は拡大し、哲学的側面が発達した。

しかし全国統一を果たした漢は、前漢の初期ころに儒教を国教とするにあたってその権威づけのために宇宙論を儒学者に要請した。当時、政治のよしあしが天に感応して天変地異の現象となって現れると信じられていたが、 その仕組みとして、天人の相関が陰陽二気の原理(易の基本原理)によって,相互に感応し合うからである,と考えた。

つまり,天と人とにそれぞれ陰陽二気があり,人の陰気が動けば天の陰気が応じて動くといった具合である。これを天人相関説という。そして陰陽を基本とする易経が儒教の経典の筆頭にとりあげられ、以降永く中国の中心思想として重視されることになる。

人より偉大な天(宇宙)の存在を考え、天と人が相関している、つまり、天災が起こるのは人徳が足りない(因果律)ので、天子(皇帝)が代わるのは天の仕業である、ような理論は、秦を漢が滅ぼすにあたっての自己の正当性の根拠とされた一方で災害が起きた時には、自らを才徳の無い人間であると称して、己を罪とし、助言を求め、罪を犯した者を赦し、隠すことのない直言を求め誤ちを補う役割も果たした。

さらに、漢の時代から約1000年後、宋代になると儒教の理論も更に洗練されて、天と人は「理」を介して同じ仕組みで動いている、つまり天は大宇宙(マクロコスモス)で人は小宇宙(ミクロコスモス)であり、マクロとミクロは同じ原理(これを道と呼ぶ)で動いている、という解釈に変化していったが、これは天人合一説と呼ばれている。これは現在でも東洋医学などにも広く適用されている考え方である。

このように権威付けされた易経の基本原理のよってくる所以は中国国内では誰も疑わなかったであろうと思われる。
それが「易はなぜ中るか?」という問いはしてはいけない、という言葉に現れているのだ。
あえて説明するなら、「天と人が相関していて、天のお告げが人に伝わるのだ」ということであろう。

天と人が何らかの方法(例えば、気や理)をもって直接結ばれていると考えていたのだ。

■ 易の時間

易には現代人が考えるような時間はない。え!と思うかもしれないが、易には事象の順序と行動のタイミングとも言うべき時機の概念はあるが、時間(Time)はないのだ。

まず、時機についてだが、これは「大川を渡るによろし。吉」という表現に代表される。この言葉は大きな川を渡るような危険なことでも実行して良い、吉であるということである。まさに意思決定を促すご宣託である。

次に事象の順序であるが、一つは,卦の中での爻の順序である。「爻と卦」に述べたように,卦の爻は下から上に上がって行く。最初が初九または初六で最後は上九または上六である。卦を人間の一生に喩えて,初爻が20歳以下,二爻を30歳以下,三爻を40歳以下,四爻を50歳以下,五爻を60歳以下,上爻を60歳以上と見る場合もあり,また,卦を会社生活に喩えて,初爻が平社員,二爻を課長,三爻を部長,四爻を役員,五爻を社長,上爻を会長と見る場合もある。三爻から四爻に移るのは,下卦の最上から上卦の最初に移ることを意味し,易でも大変だし,また人生でも大変なことを考えると,本当にうまくできていると感心させられる。これは人生での歳を重ねていく順序即ち人生の時間経過を表していると考えられる。

もう一つの順序は卦自体の順序である。易は乾(天・天)から始まって離(火・火)で終わる上経30卦と咸(澤・山)から始まって未済(火・水)で終わる下経34卦から構成される経典内での順序である。各々の64卦が自然の運行・人間の摂理に従って順番に並べられており、終わりがない(循環する時間)。その順番は上記表中に記しておいた(例;乾(01),井(48)等)。

更に卦の順序については,2つの卦がペアになって進行するという特別な規則性がある。ペアの原理とも呼べるだろう。例えば,(乾と坤),(屯と蒙),・・・(中孚,小過),(既済・未済)のように始めの2個づつがペアになって32個のペアを構成している。

ペアになる法則は,前の卦の反転したものが後の卦になるということである。つまり,前の卦を下の爻から読んで,今度は反対に上から読むと後の卦になる。但し,上から読んでも下から読んでも同じ場合,例えば乾は,全体の陰陽が反転させて坤にする。

現在までズーーーと悩んでいることが一点ある。それは,次のペアに移る法則性が見出せないことである。例えば上記の例だと,坤が屯に移り,小過が既済に移る法則性である。知っている人がいたら是非教えて欲しい。大きな研究課題である。

卦の順序は終わりがないことから、生成消滅のない循環的な宇宙観を表していると言えるだろう。

中国では上記以上の深い説明は見ることはできないが、西洋には易とは直接関係はないがよく似た宇宙観がある。 それは、ライプニッツの「単子論」であり、もう一つ、易が強い影響を与えたと考えられるユングの「共時性原理」である。

単子論は天人合一説とよく似ており、共時性原理は天人相関説とよく似ている。

(2021年12月18日;第1版 Copyright 寒泉)